東大院生ショータのなるほどアウトプット~バイオ研究者への道~

生物学系研究者を目指す大学院生のブログ。学びや気付きのアウトプットをしていきます。

ノーベル賞の取り方がわかった!? 『私の脳科学講義』 利根川進 著

利根川進先生は抗体の多様性の謎を解明し、1987年日本で最初のノーベル生理学・医学賞受賞者となりました。その後は脳科学研究の道へと進んだことは、この本で初めて知りました。現在は理化学研究所脳科学総合研究センターのセンター長でいらっしゃいます。

 

タイトルは『脳科学講義』となっていますが、著者の研究人生の歩みや考え方がよくわかる本でした。

 

 

この本から学んだこと

 

 

利根川先生がポスドク時代、自ら弟子入り志願したソーク研究所のダルベッコ博士は、1975年、がんウイルス遺伝子の研究でノーベル生理学医学賞を受賞しました。さらに、ダルベッコ博士の薫陶を受けた大学院生、ポスドクの中から、利根川先生を含めて4人のノーベル生理学医学賞受賞者が出ています。

 

ダルベッコ博士はかつて、1969年にノーベル生理学医学賞を受賞したサルバドール・ルリア博士の研究室のポスドクのでした。DNA二重らせん構造の解明で有名なジェームズ・ワトソン博士もルリア研究室の大学院生であったので、ダルベッコ博士とワトソン博士は兄弟弟子の関係になります。さらには、ポール・バーグ博士はダルベッコ研究室で行った研究がもとになってノーベル化学賞を1980年に受賞しました。

 

ルリア博士から数えて三代の間に7人のノーベル賞受賞者が輩出されたことになります。

 

このように、事実として極めて高密度にノーベル賞受賞者を輩出する系譜や集団が存在するのです。どのような先生に教わるかというのが研究人生に及ぼす影響の大きさを示唆する話ですね。ノーベル賞を取るにはノーベル賞受賞者の弟子になればいい、というわけです。(厳密には、ダルベッコ博士は利根川先生が研究室を去った4年後にノーベル賞を受賞しているので、「もうすぐノーベル賞を取りそうな人」の弟子になればいいという感じでしょうか。)

 

  • M先生の考え方は利根川進
    以前、大学でとある先生と出会ってこんな記事を書きました。実はこのとき紹介していただいた本のうちの1冊が『私の脳科学講義』でした。

     

    shota-output.hatenablog.com

     

     

    M先生は研究テーマを決める勇気の大切さを説いてくださいましたが、これは利根川進と全く同じ考え方なのです。

     

    「まず自分が一番おもしろいと思う分野を決めなさい。次に、世界を見てその分野で研究するなら誰とするのが一番いいのかを考える。そして、その人と物理的に近づく努力をする。できればその人に気に入ってもらう。」というのが利根川先生の若い学生へのアドバイスです。

     

 

  • もともと免疫学を研究するつもりはなかった

 

研究者あるあるなのですが、やはり利根川先生ももともと免疫学を研究するつもりは全くなかったわけです。

 

利根川先生はもともと京都大学工学部化学科のご卒業です。学生時代に分子生物学者になる決心を固め渡米。ある時先述のダルベッコ博士から免疫学に進まないかと勧められますが、免疫学なんて全く興味が無い。論文を読んでもてんでわからない。分子生物学者で免疫学に取り組んでいる人なんていない。それでもダルベッコ博士があまり熱心に勧めるので、先生の「大局観」を信じて免疫学の世界に飛ぶこむことを決めました。

 

その結果、分子生物学で培った思考法と研究手法を免疫学に応用し、「神の秘密」とさえ呼ばれていた謎を解明したというわけです。

 

テーマを決める勇気、一流の人に自らアプローチする勇気、そして全く違う分野に飛び込む勇気。戦略という名の必然も、出会いという名の偶然も、行動する勇気が引き寄せているのですね。

 

 

 

やっぱ研究者の人生ってどれもこれも面白いなー!